エフェクチュエーションとは、成功を収めてきた起業家に見られる、従来とは異なる思考プロセスや行動のパターンを体系化した意思決定理論のこと。本書は、5つの法則によって、思考プロセス、行動パターンを体系化しており、入門書が販売されていたので、読んでみた。

① 「手中の鳥」の原則 (The Bird in Hand Principle)  

 これは、経営戦略論で言えば、リソースベースビューの考え方と同じ。要するに、手許にある、または利用可能な経営資源を利用して、できることを考えるということ。
 目的を達成するために新しいアイデアを考えたり新たに能力を開発したりするのではなく、既存の手段から何ができるのかを考えることによってチャンスを切り拓く。
 既存の手段は、「自分は何者か(Who I am?)」(自身の特徴、選好、能力)「自分は何を知っているか(What I know?)」(自身の教育、専門性、経験)「自分は誰を知っているか(Who I know?)」(自身のネットワーク)の3つのカテゴリーで分類することができる。

② 「許容可能な損失」の原則 (The Affordable Loss Principle)

 損失を想定してスモールスタートで事業を開始することで、失敗から学びながら次の機会を探ることが可能となる。インクリメンタル(斬新的)アプローチに、予め許容可能な損失を決めて、撤退基準等を設けているイメージだ。

③ 「クレイジーキルト」の原則 (Crazy-Quilt Principle)

 クレイジーキルトとは、形や色などの違う布をパズルのように組み合わせて作り上げる一枚の布のこと。競合も含めた多様なステークホルダーと交渉しながらパートナーとして関係性を築き、パートナーの持つ資源を活用して価値を生み出す。徐々に仲間となってくれる人を増やしていくイメージですね。

 従来のように精緻な競合分析を行って競合に勝つことを目指すのではなく、競合も含めた多様なステークホルダー(従業員・取引先・顧客・政府など)と交渉しながらパートナーとして関係性を築き、パートナーの持つ資源を活用して価値を生み出すように、ネットワーク型の組織を構築していくイメージ。

④ 「レモネード」の原則 (Lemonade Principle)

 「レモンを掴まされたら、レモネードを作れ」(when the life gives you lemons, make lemonade)という諺をもとにしたもので、困難をチャンスと捉えて成功を導く(禍を転じて福となす)ことを意味する。書籍のなかでは、スリーエム社「ポスト・イット」が、事例として紹介されているが、このような事例でなくても、トラブルの発生でも、これに対する対応で、信頼の度合いが逆に上がってしまうことだってある。大手メーカーが、リコール問題を起こしたとしても、そんなに出荷されていないような製品でここまで丁寧に対応するかというようなこともあり、かえって信用を上げているようなこともある。

⑤ 「飛行中のパイロット」の原則 (Pilot-in-the-Plane Principle)

 これは、未来は技術の発展や経済動向などの外部要因が決めるものと考え、未来を予測してチャンスを待つことに労力を使うのではなく、未来は自ら創り出すものと捉え、自身がコントロールできることに集中して行動することを指すが、これは、結構難しく、AIの発展やChatGPTや画像生成AIなど、自身がコントロールできることだけに集中して行動したとしても、ある日突然、ゲームチェンジャーとなるものが出現してくる可能性がある。

補足:未来の予測に何を利用するか?

⑤で記載起業家は独自の嗅覚で、未来を予測している。この点、「どのような情報を参考にして未来予測するのか」ということに関しての参考を紹介。これは、本書の内容ではなく、なにかの記事で読んだ話だ。とある経営者は、省庁が作成している委員会などの討議資料や報告書のPDFを読むことで、国がどのような政策を推し進め、必要な法令を改正し、規制を設けるまたは規制を緩和するということを察知しているようだ。他にも、一般的な方法である、新聞雑誌・書籍・論文・自身の専門分野の雑誌を読むというのも一つの手段であり、その筋の専門家とのちょっとした雑談なんかも参考になるのだが、一つの事例として紹介。

エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」(入門書)

エフェクチュエーション: 市場創造の実効理論(専門書)